(1)「相続させる」旨の遺言とは
遺言書作成の際、相続人に財産を指定する際には、「相続させる」と使うべきです(負担付き遺贈の場合に若干の問題があると言われますが)。
相続人に対し「相続させる」と記載する遺言は、特定の遺産を特定の相続人に相続させる内容の遺言のことをいいます。つまり特定の財産について、特定の者に対し遺産分割方法の指定と共に相続分もを指定しているということです(※後述 平成3年4月19日最高裁判決)。 よって、遺言者は直ちに当該遺産が相続人に承継されるもので、遺産分割協議は不要であると判断されます。ただし、「遺贈」は相続人、相続人以外のいずれに対してもできますが、相続させる遺言は相続人に対してしかできません。
(2)相続させる遺言のメリット
遺言書作成に際して、相続人に対して「遺贈する」ではなく「相続させる」とすると記載した場合に次のようなメリットがあると言われています。
①遺産が土地や建物など不動産の場合、登記申請手続きの際、指定された者が単独で相続登記が出来る
「相続させる」との遺言の場合には、対象となる不動産の移転登記は相続人単独での申請が可能である(他の相続人の遺留分を侵害する場合であっても、この遺言書により、他の相続人の印鑑証明や同意を得ることなく単独で不動産の所有権移転登記手続きを行うことが出来ます)が、遺贈の場合は遺言執行者がいる場合は遺言執行者が行い、遺言執行者がいない場合は他の相続人全員が登記手続きに協力しない限り、訴訟手続によらなければ移転登記が出来ない。
つまり、「不動産を相続させる」と記載していれば他の相続人の同意を得ることなく移転登記が可能であるのに対し、「遺贈する」と記載されていたため、他の相続人の印鑑証明が得られない限り単独では遺贈を受けた不動産の移転登記を得ることが出来ない。
②遺産が農地の場合、「遺贈」と異なり知事の許可がいらない。
「相続させる」との遺言の場合には都道府県知事の許可は不要であるが、遺贈の場合には都道府県知事の許可が必要となる
③賃借権を相続する場合、賃貸人(所有者)の承諾がいらない。
「遺贈する」遺言の場合は、借地権・借家権を取得するのに賃貸人の承諾が必要となります。一方、「相続させる」遺言の場合は、賃貸人の承諾は不要です。
④債権者に対して、登記なくして自己の権利の取得を対抗することができます。
※遺贈とは
遺贈とは、遺言による財産の無償譲与のことをいい、遺言により財産を与える人を遺贈者、財産を与えられる人を受遺者といいます。遺留分を侵害する遺贈は当然に無効ではなく、遺留分を侵害された者からの請求によって、減殺されるにすぎないとされています。
※最高裁平成3年4月19日判決
「相続させる」趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。