(1)遺言とは
遺言とは、人の生前における最終的な意思表示を尊重し、遺言者の死後にその意思を実現させる為に制度化されたものです。要するに、遺言によって、遺言を作成した人が生前に自分の財産を自由に処分できることを法律は認めています。
(2)遺言書とは
遺言書とは、遺言、すなわち、死後の法律関係を定める意思表示が書かれた書面をいいます。
(3)遺言書と遺書は同じ?
「遺言書」は、法定の厳格な要件を備えた法的効力をもつ文書(英語で「will」)です。
従って、確かに遺言者本人が書いたものだと立証されても、所定の要件を満たしていなければ法律的には無効になります。
一方「遺書」は、法律的な効力を元々求められていないので、所定の様式は無く、亡くなる前に自分の気持ちなどを家族・友人に書き記したもの(英語では「note」や「letter」に相当)です。「遺書」の具体例として分かりやすいのは、自殺する人が書き残した手紙です。
(4)遺言で出来ること
遺言書には何を書いても自由です。しかし、遺言書に何を書いても、何でも実現できるわけではありません。強制力を持つのは、下記の内容に限られます。ですから、これ以外のものは書いても法律上の効力はありません。
【遺言できる内容】
①推定相続人の廃除・取消(民法893条、894条2項)
②相続分の指定または指定の委託(民法902条)
③特別受益の持ち戻しの免除(民法903条3項)
④遺産分割方法の指定または指定の委託(民法908条)
⑤遺産分割の禁止(民法908条)
⑥相続人相互の担保責任の指定(民法914条)
⑦遺贈減殺方法の指定(民法1034条)
⑧遺贈(民法964条)
⑨財団法人設立のための寄付行為
⑩信託の設定(信託法3条)
⑪認知(民法781条2条)
⑫未成年後見人、未成年後見監督人の指定(民法839条、848条)
⑬遺言執行者の指定または指定の委託(民法1006条)
⑭祭祀の承継者の指定(民法897条)
⑮生命保険金受取人の指定・変更(保険法44条)
(4)遺言書がない場合の相続(法定相続)
よい遺言書を書くためには、遺言がない場合の相続の仕組みを理解する必要があります。
まず、遺言書がなければ、亡くなった人の財産(相続財産)は、法律が定めた相続人(法定相続人)が相続することとなります。そして、誰がどれくらいの割合で相続財産を相続するのかという点についても、法定相続人間の話し合い(遺言分割協議)がまとまらない限り、調停や審判を経て最終的には、法定が定まる割合(法定相続分)に従って、遺産分割がなされることになります。このように、遺言書がない場合には、法定相続人以外の者は相続できませんし、遺言分割協議がまとまらなかった場合には、法定相続分に従うことになります。
法定相続については、【相続税の基礎知識】に記載
(5)遺言の取り消し
遺言者(被相続人)は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を取り消すことが出来る。遺言の撤回をする場合には、民法の規定に従わなければなりませんが、先に作成した遺言と同じ方式で作成する必要はありません。例えば、公正証書遺言を撤回するのに公正証書遺言で行わず自筆証書遺言で行うことも出来ます。
(6)遺言の種類
遺言の種類は、普通方式と特別方式に大別出来ます。いずれの方式も作成方法が民法によって厳密に定められており、この方式に従わない遺言は無効になります。また、有効な遺言書が2通り以上発見された場合には、日付の新しいものが優先します。よって、遺言の書き換えなどは、法律様式に従っていればいつでも可能です(知らないところで書き換えられていたというトラブルも聞きます)。一般的に普通方式の遺言は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つに大別されます。各々特徴やメリット・デメリットはありますが、最も安全確実な公正証書遺言を勧めています。
①普通方式遺言
A(作成方法)
自筆証書遺言 | 本人が全文、日付(ない場合には無効)、氏名を自署し押印(認印可拇印可)する。ただし、代筆不可、ワープロ不可、様式には制限なし |
公正証書遺言 | 本人が遺言の内容を口述(手話を含む)し、公証人が筆記したうえで公証人が遺言者・証人に読み聞かせる。 本人、公証人、証人が署名・押印する。 |
秘密証書遺言 | 本人が、遺言書に、署名、押印し、遺言書を封じ同じ印で封印する。ただし、代筆可、ワープロ可 公証人の前で本人が自分の遺言書であること、住所、氏名を口述し、 公証人がその口述内容、日付を証書に記載する。本人、公証人、承認が署名、押印する。 |
Bその他の特徴
種類 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 |
作成 方法 | 本人が全文、日付(ない場合には無効)、氏名を自署し押印(認印可、拇印可)する 代筆不可 サープロ不可 様式:制限なし | 本人が遺言の内容を口述(手話を含む)し、公証人が筆記したうえで、公証人が遺言者・証人に読み聞かせる 本人・公証人、証人が署名、押印する | 本人が遺言書に、署名、押印し、遺言書を同じ印で封印する 代筆不可 サープロ不可 公証人の前で本人ンが自分の遺言書であること、住所、氏名を口述し、公証人がその口述内容を、日付を封書に記載する 本人・公証人、証人が署名、押印する |
場所 | 自由 | 公証人役場 | 公証人役場 |
証人 | 不要 | 2人以上 | 2人以上 |
署名捺印 | 本人 | 本人・公証人・証人 | 本人・公証人・証人 |
保管場所 | 自由 | 公証人役場 | 自由 |
検認 | 必要(家庭裁判所) | 不要 | 必要(家庭裁判所) |
メリット | 遺言内容を秘密に出来る | 最も安全で確実である | 遺言の内容を明確にし、遺言内容を秘密に出来る |
デメリット | 紛失・変造・偽造の危険がある | 遺言内容の秘密保持が出来ない | 手続きがやや煩雑となる |
②特別方式遺言
緊急時遺言(臨終遺言)と隔絶地遺言がありますが、我々が仕事をするうえで、まったくといっていいほど出てきません。特別方式遺言は、普通方式遺言をするのが困難な状況下で例外的に認められたものです。遺言書を作成する人が、普通方式遺言をすることが出来るようになった時から、6ヶ月生存する時は、その効力を失います。